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くにたま通信

あれから14年

 宮司 山名隆弘

平成23年3月11日午後2時46分、巨大地震ついで大津波。記憶はしだいにおぼろげになりつつあります。当時、記述しておいたことが、今さらながら大切に思われます。以下は沼ノ内諏訪神社の記録で「なるほど歴史塾」(村上榮会長、今月を以て18年間の活動を了える)の年刊誌に載せたものです。

倒壊した鳥居を甦らせた話

沼ノ内を夏井から豊間・江名に向かう県道が通っている。下高久と沼ノ内の境界には信号機があって、そこには2軒のコンビニが在る。さらにそば屋があり、こんどいわ信の仮店舗ができた。その付近に杉や欅・餅の木などの小さな森があって、旧村社・諏訪神社が鎮座している。我が家は代々、この神社にも奉仕していて、毎月初めには月次祭を行っている。

3月11日の震災によって、石の大鳥居が倒壊し、その下敷きになった狛犬も破損したのだが、津波の被害はまことに軽微にすんだ。この地区の津波は弁天川を遡って街区に侵入したが、床上までには達しなかった。津波は北茨城沖の震源に発して、東南方より襲来したようであった。したがって、その方角に面していた浜辺は悉く甚大な被害をこうむったのである。磯原・岩間・小浜・小名浜・永崎・豊間・薄磯・四倉・久之浜などは直撃を受けたわけである。しかし、江名港は南側の岬が、この力を減衰したので街区は助かっている。豊間の合磯の岬も同様な役割を果たしたから、町の南部の一面は辛うじて助かった。塩屋崎も北麓の「美空ひばり歌碑」の小さな一画を護る役割を果たした。だが薄磯の町は壊滅してしまっている。

薄磯と沼ノ内を境する岬がある。その先端下方に、海蝕崖・洞穴があって地蔵の石像が何体もまつられている。岬の北側は沼ノ内港であって、この施設は全壊した。だが津波は沼ノ内の浜堤上に一列になって建ち並んでいた二十数軒の家を破壊して、引いて行ったのである。

3月12日朝、私は諏訪神社が心配なので出かけてみた。下大越の宿という街道沿いの家々の屋根はあらかた損壊していたが、大越浦からの津波の侵入は無かった。滑津川の川口からの津波の遡上は軽微であったようで、かねまん本舗の床上に少し水が入った程度であった。

諏訪神社に到着し、被災状況を実見して安堵の胸を撫でおろした。そのあと、旧道を薄磯に向かったが、町の入り口はガレキで塞がっており、車は入れなかった。その峠から、塩屋崎灯台までは一望できるほど、家々は津波によってかき消えていた。

4月7日。わが家ではガレキを四倉町仁井田の集積場に運び始めた。「戦後日本の消費経済の総決算場」の観である。この頃から、神社仏閣で倒壊した石灯籠や鳥居などの処分について、問い合わせがつづいた。私は諏訪神社のものについて、一つの案を抱いていたから、それを沼ノ内の区長や役員に提案してみたのである。

「倒壊した石鳥居と狛犬をガレキとして捨てないで、巧く配置して、大津波の事実を後世に伝えるべきではないか。」

というものだった。境内の南西部にはそのためのスペースがある。その配置については、「アクアマリンふくしま」の安部義孝館長に頼むことに決めていた。鹿島街道の文房具店で画用紙とマジックインキを求めてアクアマリンへ行き、安部先生を強引に誘い出して諏訪神社へ急行した。髙萩石材店主と待ち合わせておいた。即座にデッサンができ上がり、やがて竣工した。

碑文は、豊間地区の被災状況を述べたものだが、古い鳥居の台座を裏返したものに刻んでもらった。渚の景色がつくられた。区長さんたちは、浜から白砂を運んでくれた。

この地区の被災家屋は二十数軒。犠牲者は他地区に行っていた人が二人だった。沼ノ内公民館はしばらく避難所として使われたが、薄磯と豊間にくらべれば、沼ノ内は軽微な被災である。この三地区の児童・生徒は豊間小と豊間中(両校とも薄磯に所在)であるから、沼ノ内の子供たちは、複雑な心境に置かれていたであろう。

しかし、「豊間地区の復興は沼ノ内から!」という勢いをもちながら、大人も子供もとにかく勇気を奮うしかない。八月末の獅子舞のお祭りもやるのだ、というのである。

その頃、いわき市立美術館では、市内五十人ほどの作家による震災関連の展覧会が開かれていたが、私は内心ひそかに、諏訪神社の作庭もまた、ひとつの価値を有するであろうと思ったほどである。

沼ノ内を大津波から守りぬいたものは何か。それは「須賀山の松林のおかげだと異口同音に言うのである」。内藤政長(法号道山)が、領内沿岸に植えさせた黒松林の恩恵であった。私は、新舞子から沼ノ内に遺存するこの「道山林」を国の史跡・名勝として指定を受ける運動をやってみたいと考えている。

※なお、当時の沼ノ内区長は遠藤欽也氏、総代長は永山金次郎氏であった。永山氏はこの祈念公園に灯台の崖のハマギクを移植した。

宮司 山名隆弘

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